副業を隠すために「残業してる」と
嘘をつき続けた夜の話
「嘘で作った副業時間」
「今日も残業?」
妻からのLINEに、僕はいつも同じ返事を返す。
——本当は残業なんてしていない。カフェでノートPCを広げ、副業の作業をしているだけだ。
借金を返すために始めた副業。
でも、家族には理解されないだろうと思って、言えなかった。
結果として、僕は「残業」という嘘で副業時間を作るようになった。
その嘘が積み重なっていくたびに、罪悪感と焦りが増していく。
キーボードを叩く指先は動いていても、
心のどこかでは「これは家族に対する裏切りじゃないか」とささやきが消えない。
そんな夜の記録だ。
「カフェの明かりと罪悪感」
副業を始めたのは、残業代だけでは借金返済が追いつかないと悟ったからだ。
ブログ、クラウドソーシング、YouTubeの企画……やることは多い。
家に帰れば、子どもの世話や家事が待っている。
夜中に作業する選択肢もあったが、疲れ切った体でパソコンを開いても、
効率が落ちるのは目に見えていた。
だから選んだのが「帰宅前のカフェ作業」だった。
19時定時なのに、家には21時半に帰る。
理由を聞かれたら、「急ぎの資料作りがあって」とか「打ち合わせが長引いて」と答える。
最初は軽い嘘だった。
けれど、回数を重ねるごとに嘘は習慣となり、LINEの通知を見ても心が重くなる。
「既読」にしてからため息をつき、カフェの時計をにらみながら作業を続ける夜。
帰り道、街灯の下で歩く足取りは重く、
家のドアを開ける瞬間に「残業のフリ」をしている自分に気づく。
小さな嘘が積み重なるたび、家族との会話は少しずつ減っていった。
カフェの温かい明かりと引き換えに、家の中の温もりが遠ざかっていくような感覚があった。
「副業を隠す人の共通事情」
実は、副業を隠す人は意外と多い。
副業コミュニティやSNSでも「家族に言えない」「会社にバレたくない」という声は数多い。
なぜ隠すのか?理由は大きく3つある。
1.家族や会社の理解不足
「副業=怪しい」「家庭をないがしろにするもの」と思われるリスクを避けたい。
特に借金返済という目的を口にすれば、余計に「危ないことに手を出しているのでは?」と疑われやすい。
2.成果が出るまで見せたくない心理
副業の初期は収益が不安定だ。
「稼げてないのに何してるの?」と言われるのが怖いから、隠す。
僕自身も「まだ借金を減らせてないのに説明できるわけがない」と思っていた。
3.就業規則や人間関係の影響
会社が副業禁止だったり、同僚に知られると立場が悪くなる。そんな事情も大きい。
ただし、嘘をついて副業時間を確保することは精神的負担が大きい。
心理学的にも「認知的不協和」が生じ、
集中力やモチベーションを削ることが分かっている。
僕が「作業のために残業と偽った」夜も、
頭の片隅では常に罪悪感が渦巻いていて、成果は思ったほど伸びなかった。
「隠すなら戦略的に」
僕が学んだのは、「隠すなら隠し方も戦略的にすべき」ということだ。
・嘘をつく回数を最小限にする
・副業時間を確保できる日を固定する
・家族に「自分時間」の必要性を間接的に伝える
本来はオープンにするのが理想だ。
でも、環境的に難しい場合は「嘘で消耗しない工夫」が必要になる。
例えば、毎週1日だけ「残業」と言い張り、その日は徹底して副業に集中する。
週に何度も嘘を重ねるのではなく、頻度を減らすだけで心の負担は大きく違う。
また、「趣味の時間が欲しい」とか「リフレッシュが必要」という言い方で、
自分の自由時間を確保する方法もある。
正直に「副業」とは言えなくても、
「一人時間」という枠組みで理解を得られるケースもあるのだ。
借金返済という切実な目的がある以上、副業は続けなければならない。
だからこそ、罪悪感に押しつぶされる前に「隠し方」自体を見直す必要があると痛感した。
「嘘を減らして、言える日を待つ」
今も僕は、たまに「残業」という言葉で副業時間を作っている。
でも、以前より嘘の頻度は減らした。
少しずつ副業収益が安定してきたら、
「そろそろ言えるかもしれない」という気持ちも芽生えるかもしれない。
いやきっと借金返済が少しでも進めば、
堂々と「これは副業の成果だ」と言える日が来るはずだ。
副業を隠すのは悪ではない。
けれど、嘘をつき続ける夜は心を削る。
嘘に慣れてしまう前に、減らす努力をすることが自分と家族のためになる。
いつか「残業じゃなくて副業だよ」と胸を張って言えるように。
その日まで、僕は今日もカフェでパソコンを閉じて、家路につく。
コメント